森永乳業に対する損害賠償請求訴訟に関連する
4月11日朝日新聞記事の「協会前野理事長の話」について
大阪市在住被害者による森永乳業に対する損害賠償請求訴訟の判決が4月22日に大阪地裁で出されました。判決内容は「原告の請求を棄却する」というものでした。守る会は裁判の原告でも被告でもありませんが、被害者団体であり救済事業に主体的に関わっている立場から関心を持っています。
守る会は51年前に「慰謝料(一時金)」ではなく被害者を生涯にわたって救済する「恒久救済」による解決の道を進むことを決めました。その結果、守る会・国・森永の三者が合意してひかり協会による救済事業が始まり今日まで続いています。森永も責任を認めて以降は誠実に被害者救済に向き合っているといえます。守る会・国・森永は、「恒久救済」を完遂するためにそれぞれの立場で責任を果たしています。守る会は、今後も森永に救済資金を出し続けることは求めますが、個々の被害者に対する慰謝料(損害賠償金)を求めるという方針はとりません。
なお、ひかり協会の前野理事長からは「これからも、原告の方には従来から実施している生活手当支給等の救済事業を継続し、ご支援を続けてまいります」というコメントが出されており、守る会もその考えを支持するものです。
ところで、この裁判の判決に先立つ4月11日付朝日新聞朝刊の記事中の「前野理事長の話」について疑問の声がありましたので、以下、本人からの説明を掲載します。
4月11日付朝日新聞記事の内容
「森永ヒ素ミルク慰謝料訴訟22日判決」という記事の中で、「前野理事長は取材に『森永は真摯に救済事業に向き合っている。被害者間のつながりが生まれ、毎月の手当ては十分で、今ではミルクを飲んで良かったという被害者もいる』と話す。証人尋問でもそう語った」という一文がありました。しかし、これは裁判についてコメントを求められて話した内容ではなく、特に傍線の内容は、裁判の証人尋問を切り取ってきたものであったり、私が証言していないものであったりする不正確なものです。
①「毎月の手当ては十分」について
証人尋問で原告側弁護士から「手当は十分だと思うのか」と問われた私は「十分かどうかは個々の被害者の主観によって異なるかと思う。しかし、守る会と合意して決めた額を支給しているので、妥当な額だと考える」と答えました。さらに「不十分か十分かで答えよ」と迫ってきたので「協会理事長の立場からは十分だとお答えするしかない」と答えました。最後の部分が切り取られています。
②「今ではミルクを飲んで良かったという被害者もいる」について
これは取材でも裁判の中でも私は言っておりません。「ミルクを飲んで良かった」という言葉は原告側が私を攻撃するために16年前の産経新聞をゆがめて引用したものです。(詳細は後述)
この文に対して「私はこう言っていないではないか」と朝日記者を追及したところ「社内でも指摘があり途中で削除した」と述べました。確認すると、大阪版など時間的に遅く印刷されたものからは省かれていました。数日後「本当に私が言ったというなら録音されているものを聞かせてくれ」と申し入れたところ「情報保秘の観点から原則として外部に出すことはできない決まりになっております」と返事が返ってきました。
私が言っていないことを記事にしてしまったことは明白です。
16年前の産経新聞記事について
裁判の中で、原告側弁護士に「以前、副理事長の時(産経新聞に)『ヒ素ミルク事件の被害者でよかったと話す仲間さえいる』と言っているが、取り消す気はないか」と尋問されました。私は、「事実なので取り消さない」と答えました。
その後、原告側は最終準備書面で「理事長が『ミルクを飲んでよかった』『森永砒素ミルクを飲んでよかった』と発言した。理事長失格だ」と言葉を変えて攻撃しました。おそらく朝日の記者はそれを見て、記事を書いてしまったのでしょう。
ところで、16年前の産経記事で「ヒ素ミルク事件の被害者でよかったと話す仲間さえいる」と書かれたいきさつを説明します。産経は当時JR脱線事故の償いの仕方について様々な取材をして、その一つとして救済事業を比較的順調に行っている森永ひ素ミルク中毒事件を取り上げたのです。
ですから、記事には森永が責任をとっていること、守る会が救済事業の方向付けをしていること、ひかり協会が相談事業を重視していることなどが事実に基づいて書かれています。私はこの取材の中で、「ミルクを飲んだことは不幸だったが、今では被害者の仲間のつながりも強くて救済もきちんとされており、充実した人生を送っているのでこの事件の被害者でよかった、と話す仲間さえいる」と話しました。記事には最後の部分だけ切り取られていました。ちなみに、そのように話す障害被害者がいらっしゃったことは事実です。
ただ、今回の朝日記事や裁判の中でゆがめられて使われる恐れもあるので、今後、メディア対応はいっそう慎重に臨もうと考えるものです。 以上