歴史的資料:恒久対策案(森永ミルク中毒被害者の恒久的救済に関する対策案)

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恒久対策案(1972年8月20日 森永ミルク中毒のこどもを守る会)

A はじめに

森永ヒ素ミルク中毒事件は、昭和30年8月24日、岡山大学の報告によって明るみに出された。

この事件は、森永乳業株式会社(以下、森永という)が、徳島工場で、昭和30年4月頃から相当期間にわたって製造販売した森永ドライミルクの中に入っていたヒ素等の有毒物質によって、当時これを飲用した乳幼児等12,000人以上が重篤な中毒症状を起こし、うち130人以上ものいたいけな乳児が死亡するという人類史上前例のない事件であった。

したがって、被害児のその後の経過を長く観察し、充分な健康管理が必要であったにもかかわらず、森永も国ならびに地方の行政機関も、多くの医療機関、医学者も、翌31年に行なった、きわめて非科学的な検診をもって「治ゆ、後遺症なし」と断定し、じ来「森永ミルク中毒のこどもを守る会」(以下守る会という)を始めとする各地の被害者の訴えにも耳を傾けることなく、その責任と必要な措置を放棄して来た。

そのために、被害者たちの病状は何ら継続的に観察・研究されることなく、したがって必要な治療を施されることなく放置されてきた。

その結果、多くの被害者たちは今日まで種々の疾病障害に悩み苦しみつづけ、現在なお不治の病状に苦しむ者が後を絶たない状態である。

事件後今日まで何人の被害者たちが死亡していったか、それすらも現在まだ明らかにされていない。

また昭和32年3月1日に厚生省が発表した、被害者総数12,344名、うち死亡者130名という数字も、当時ヒ素ミルクを飲用し、一定の中毒症状を呈し届け出た者のうち不当な制約の下に確認された者の数であって、それ以外のヒ素ミルク飲用者の数・氏名は全く把握されていない。

事件後14年たった昭和44年10月、大阪大学医学部丸山博教授らによって、これらの被害児の現状について問題があると発表され、再び社会的に注目をあびるようになってからも森永はもちろん、関係各省庁では何ら被害者の納得するような救済対策を講じなかった。

われわれ「守る会」に結集している親たちは、これらの被害者の現在ならびに将来の問題について、必要な対策を確立するため、森永と交渉し、国ならびに地方行政機関に訴えつづけてきたが、未だに安心して、「子供を托す」に足る対策は確立されていない。

森永は去る昭和46年12月19日に、いわゆる「恒久措置案」なるものを発表したが、これは加害企業としての責任を認めず、関係各省庁に責任をなすりつけ、お座なりの措置によって世論をまどわせ、再び被害者を葬ろうと企てるものであると判断せざるをえない内容であり、親としてのわれわれの、とうてい受け入れることのできないものであった。

よってわれわれは、全面的にこれを拒否し、この森永ミルク中毒事件が経済の高度成長初期における典型的な食品公害であり、被害者の圧殺という面でも、その後の公害の原型となったものと考え、あらゆる公害の加害企業が果たさねばならない社会的責任を明らかにし全国の公害被害者救済のための新しいパターンを提示しようとするものであり、かつ貧困な福祉政策のもとに充分な救済を講じられていない一般の障害者の利益にも貢献しうるものと信じ、さらにかわいい子供たちが健康を回復維持し、憲法の定める基本的人権を保障された幸福な生活を送りうるようにとの願いをこめて、ここに恒久的救済対策案を発表する次第である。



B 恒久的救済対策の前提となる原則

恒久的救済対策を確立するためには、次に列挙する前提となる原則が必要であり、これを無視しては真に被害者を救済することは不可能である。

(1)救済対象は全被害者
森永ヒ素ミルク被害者が、当時国および地方行政機関の責任で認定作成された名簿に記載されている者だけに限られるという根拠は全くないのであって、ヒ素ミルクを飲用したが種々の理由で名簿に登録されなかった、いわゆる未登録患者も当然に同一の救済の対象になることはいうまでもない。

(2)森永の責任
森永は以下の条項を率直に認め、正しい反省の上にたって、加害企業としての責任を全うすべきである。    
(イ) 昭和30年の事件は、森永が食品製造業者としての注意義務、とくに乳幼児の唯一のかてとなる調整粉乳を製造するものとしての注意義務に違反したために発生したものである。
すなわち森永は、鮮度の落ちた原料乳に乳質安定剤として第二燐酸ソーダを使用していたものであるが、前記の如き食品製造業者としては、当然「試薬一級品」を使用すべきであったにもかかわらず「工業用第二燐酸ソーダ」を検査もせずに使用したこと、ためにヒ素化合物を含む本件「いわゆる工業用第二燐酸ソーダ」をその不注意により使用し、ヒ素入りミルクを製造したものであること。

(ロ) 事件当時にとった森永の措置はすべて自己の企業利益を守る立場に立ってなされたものであり、そのために国ならびに地方行政機関、医学界の「権威者」と一体となって被害者を圧殺したこと。
「五人委員会」「西沢委員会」はすべてそのような目的のために機能したこと。
「森永奉仕会」もまた、なんら障害者の救済に機能するものではなく、文字通り森永の企業利益に奉仕するものにすぎなかったこと。

(ハ) その結果被害者たちは、必要な治療や諸対策(継続的観察・健康管理・研究等)から閉め出され17年間苦しみ続けてきたこと。

(ニ) 従って現在、被害者およびその家族のかかえている苦痛、悩み、不安はすべて事件に起因するものであること。すなわち、現在までの検診、調査、研究の結果、医学的にはすでに因果関係ありとするのが確定的になっているのであり、被害者とその家族の今まで蒙った悲劇、不幸はとうてい言葉では言い尽くせないものであるが、これらはすべてヒ素ミルク事件に由来するものであると言わねばならない。
   
(3)国および地方自治体の責任

(イ)事件発生前の責任
本件は、日本軽金属清水工場において製成された産業廃棄物が、工業用第二燐酸ソーダという名のもとに、森永製造にかかる調整粉乳に混入したものであるが、厚生省は前記有害物質を毒物として取締る立場にあり、かつ取締りうる機会があったにもかかわらずこれを怠り、また乳製品の添加物について、適正な取締りをしなかったものである。

(ロ)事件発生後の責任
事件発生後、厚生省は食品行政、公衆衛生行政の責任機関として、被害者の実態のすべてを把握し、かつこの中毒事件が人類史上に前例をみない乳幼児のヒ素中毒である点からして、その後の経過を観察し充分な健康管理をする等、万全の措置を講じ、もって被害者の完全救済に努めるべき立場にあったにもかかわらず、    
広報活動を充分徹底しなかったのみならず、保健所、地方行政機関および加害企業に対して、被害者の取扱いについて不当な指導をなし、登録患者の数にまさるとも劣らない数のいわゆる未登録患者を作り出し、ためにそれらの人々はこの17年間二重の苦しみに呻吟してきたのである。
事件発生後、被害者の親たちの森永に対する要求がはげしくなるにしたがい、森永の利益を擁護するため厚生省は日本医師会に「診断基準、治療指針等」の作成を委嘱し、公正と権威を装った非科学的な基準を適用して、患者の切り捨て、治療の打切りを進める一方、補償問題については乳製品協会の資金によって運営された「五人委員会」に委嘱し、後遺症なしとの判断のもとに極めて低廉な額の補償を提示し、「後遺症なし」という判定に対して疑いをもった被害者の声に対しても、昭和31年に極めてずさんな非科学的「精密検診」を行なっただけで、本事件を政治的・行政的に葬り去り以後17年にわたり被害者の要求を圧殺しつづけてきたものである。
地方自治体もまた、被害者である地域住民の利益を守ることなく、中毒発生から治療打切に至るまで、終始一貫して国の末端機構として、森永と一体となって被害者抹殺をはかる厚生省の忠実な手足としての役割を果たした。
また治療打切後も、本事件の性質から患者の継続的健康管理が必要とされたにもかかわらず被害者の声に耳を傾けようとしなかった。
   
(4)被害者の実態究明
全被害者を救済し、将来の不安に備えるためには、まずすべての被害者の実態を明らかにしなければならない。
その際、被害者の氏名が加害企業または行政官庁の所持する名簿に登録されているということだけでは不十分である。われわれは、国がその責任においてすべての被害者に対して「被害者手帳」を交付することを要求する。
被害者である事実は被害者本人またはその保護者に確実に知らされるだけでなく、何時でも何処でもそれを提示することによって被害者であることが証明される「被害者手帳」の交付によって保証されなければならない。この手帳は将来被害者たちを末永く観察し、治療し、その健康を管理してゆくための基礎となるものである。
この「被害者手帳」を交付する過程の中で現在までの被害者たちの実態を正しく把握し、その全容を明らかにしてゆくことが必要である。
また将来に対する実態究明の態勢をも確立しなければならない。

(5)恒久的救済対策の内容
われわれの恒久的救済対策案作成の経緯から判断されるように、恒久的救済対策は過去17年にわたって不当に傷つけられ、奪われてきた被害者の生存権・生活権・教育権等の完全回復・擁護を目的としたものでなければならない。
したがって死者に対する補償、およびすべての被害者の過去17年間を含む苦痛等に対し、適正な補償措置を講ずるのみならず、将来にわたって被害者の健康と幸福な生活を保障する諸策と、それを実現する態勢を確立することを内容とするものである。



C 恒久的救済の具体的対策

I.具体的対策実施に際して考慮すべき問題点

恒久的救済対策を具体化するに当っては、まず森永ヒ素ミルク中毒の医学的特徴を充分に理解する必要がある。
そしてその特徴から導き出されるいくつかの原則的問題点を具体策の根底において考えることが重要であろう。

(1)森永ミルク中毒の医学的特徴
現在までの検診や調査研究によって、森永ヒ素ミルク中毒の医学的特徴は種々明らかにされてきたが、その中で、次の諸点は救済対策を具体化する上での重要な基礎的事実として認識されなければならない。

(イ)医学的に未経験の中毒
この事件は、大多数の被害者が人間成長・発育の過程で最も重要な時期である乳児期に主食としてヒ素等の混入したドライミルクを飲用し、ヒ素の直接作用のみならず、そこから引き起こされた栄養障害に陥り、辛うじてその状態を克服した乳児も大きなハンディキャップを背負って成長を始めなければならなかった特異な出来事であった。
このような経験は人類史上初めてであり、医学的にも未知の問題が多い。そのため今後いかなる変化が、被害者や、その子孫におこるか予測できない。

(ロ)中枢神経系症状の多発
現在までに究明された、被害者群の医学的変化の最も重要な特徴として、微細脳障害症候群、精神薄弱、てんかん、脳性麻痺などの中枢神経系症状を示すものが多い点が指摘されている。これらの被害者は自ら判断して生活、行動する能力を失い、あるいは制限されているのである。

(ハ)17年間の空白の影響
被害者は、中毒事件発生以来17年間、健康管理を組織的に受けることなく放置されてきた。そのため、日常生活のすべての面で身体的問題などについての悩みや心配が心理面に強い影響を与え、精神発育や情緒・生活発達にマイナスの効果を及ぼしてきた。

(ニ)現在の科学レベルで把握できない症状
これら身体的、心理的欠陥については、現在の科学的技術や検査法で把握できないものが多く含まれており、また治療についても未開発の分野が多いことを認識しなければならない。

(2)具体的対策についての原則的諸問題
以上の医学的特徴から、次の諸事項が具体的対策にもり込まれなければならない。

(イ)継続的健康管理
この中毒の医学的特徴を考えれば、被害者の恒久的健康管理が必要なことはおのずから明らかである。
検診はその重要な方法であるが、日常の健康管理もまた、それらに劣らず重視されなければならない。
健康管理については、被害者および家族の意志を尊重すべきことはもちろんであるが、能動的に被害者や家族に働きかける積極性が必要である。
そのために、健康管理機構が確立されなければならない。

(ロ)実態の把握とその態勢
真に救済の目的を達成するためには、被害の実態を科学的、動態的に把握し、今後起こりうる事態の予測と予防、治療方法の究明、効果的な保護育成対策などに役立てることが必要である。 そのために疫学者と臨床医の協力のもとに恒久的追跡調査機構が確立されなければならない。

(ハ)治療、養護の内容
被害者群の集団的特性よりみて、治療・養護とは単に身体的のみでなく、精神的、社会的生活においても健康を回復・維持することを意味しなければならない。
そのためには、医療保険制度など不充分な現行の社会保障諸制度の枠に捉われた治療、養護は制限治療、制限養護に連なることに注意すべきである。
貧困な現在のわが国の社会保障が対策の基準になってはならず最高の治療、養護の方策がとられなければならない。

(ニ)各種対策の一貫性
健康管理、治療、養護(保護育成)など各種対策が相互に無関係に実施されては、被害者にとっては混乱を招くだけに終わるであろう。
したがって各対策が個々の被害者について一貫した方針の下に有機的に連携を保ちつつ実施される必要がある。そのために強力な管理機構が必要である。

(ホ)救済責任と救済体制
森永は加害企業として被害者救済のために全面的に責任を負うべきである。また加害企業に加担した国及び地方自治体も独自の責任において被害者救済に全力をあげなければならない。これらの救済対策の過程においては、良心的な医療従事者、心理学者、社会福祉関係者、ボランティアなど、各種団体や個人の協力体制があって、はじめて救済対策が結実することを認識してとりくむべきである。


Ⅱ.具体的対策

以上の問題点を考慮して次のような諸対策とその運営が立案される。

(1)健康管理、追跡調査
    (イ)定期検診
毎年1回以上の定期的精密健康診断を永久的に行う。
定期検診を行う医療機関は被害者および家族の希望する医療機関とするが、検診能力も考慮して、協力しうる医療機関を選定組織してあらかじめ需要に応えうるよう準備することが必要である。
検診には統一カルテの使用を原則とし、各医療機関による検査項目の不統一と判定の差をなくすよう努力する。他方、各医療機関による被害者救済のための実態の究明等独自の活動を尊重する。

(ロ)不定期健康診断、健康相談
被害者および家族の希望により、必要に応じて自ら選択した医療機関や相談機関で随時診察相談を受ける。

(ハ)管理登録センター
健康管理、追跡調査を統一的に実施するために後述「森永ミルク中毒被害者救済対策委員会」(以下「救済対策委員会」という)の下に「管理登録センター」を設置し、疫学者と臨床医の協力のもとに運営する。

(2)治療

(イ)受療
治療が必要な被害者は希望する医療機関で随時治療を受けることができる。
治療の内容にはいかなる制限も加えず、和・漢・洋一切の療法を含む。

(ロ)療養関係費
治療は無料で受療できるようにする。医療費は直接の治療費のほか、付添看護費、補食費、通院宿泊費、その他諸雑費も補償し、保護者が引率した時はその交通費、休業損害も補償する。
自宅等で療養するについて諸設備を必要とする時はその費用を補償する。

(ハ)医療チームの編成
充分な治療を適切に実施するために医療の充実化を行なう。そのための一つとして、被害者の要望に応じて活動しうる複数の医療チームカ編成されることが望ましい。
医療チームには専門医による、「専門別チーム」と、家庭医から専門医に紹介しうる(その逆もある)「地域別チーム」が必要である。これらのチームは、同時に研究機構の一部として機能しうるものである。

(ニ)相談判定
被害者の相談に応じ治療、検診、就職、職業訓練、施設への入所などについて適切な判定と助言を与え、かつ指導する。
そのための相談窓口を設ける。この機関は少なくとも各府県に1ヶ所は必要である。
構成メンバーは医療、心理、教育、社会福祉などの各種専門家よりなり、前述の「管理登録センター」や後述する「保護育成委員会」などとの有機的な連絡の下に運営される。

(3)健康手帳

(イ) 継続的健康管理のため、検診、相談、治療について利用できる健康手帳を発行し各被害者に交付する。

(ロ) 健康手帳は受診券としても使用できるようにし、受診時に医療機関、相談機関に呈示すれば無料で治療、検診、相談を受けられるようにする。

(ハ) 検診、相談、治療を受けた日時、期間、病名などは各検診相談、治療機関において健康手帳に記入し、必要に応じて「管理登録センター」が追跡調査できるようにする。

(4)家族に対する保障

(イ)介護料
日常生活を-人では完全にすることができない被害者に対しては、保護者、その他の介護人の必要性を認め、専属的介護によりその段階に応じて介護料を支払う。

(ロ)家族の健康の保障
被害者の看護にあたる家族が看護により誘発された疾病に罹患した時は、その医療、療養費について被害者と同様に保障する。

(ハ)家族の生活の保障
被害者を看護する家族が、そのために働けない時はその休業損害を保障する。またそのために家族が収入を得ることができず、廃業または低収入に甘んじなければならない場合は、その生活費を保障する。
この場合、介護料を支払っている時はそれとの差額を保障する等、総合的に判断する。

(5)保護育成とその施設

(イ)保護育成の原則
保護育成は被害者が社会生活をしうるように援助することが第一義的に重要であり、収容施設への収容が目的ではない。被害者にとっては各家庭が生活の基盤であり、本来保護育成されるべき場は家庭にある。このことは原則として確認されなければならないし、各種の対策はこの原則から逸脱してはならない。したがって、看護にあたる保護者は、被害者の治療、保護育成に欠くことのできない必要な要員であり、その生活に対する保障は充分に考慮されなければならない。
教育の面においても、被害者であるための差別を許してはならず、被害者の教育を受ける権利を全面的に援助しなければならない。

(ロ)相談判定
被害者の職業選択など保護育成に関する適切な相談、判定を行なう。
これには前記相談判定機関があたるものとする。

(ハ)教育
義務教育を受けることができなかった被害者に対し、その能力に応じて可能な教育を与える。
この場合、養護学校、特殊学校、訪問指導員、ボランティア活動など、現在行政機関が実施している諸制度や方法も充実活用する必要がある。
義務教育を終了していてもなお社会生活ができないものに対して自立して生活を営むのに必要な知識を与え、実生活に即した訓練をする。
この場合、生活基盤である家庭生活を無視して実施することは不可能であり、家族も共に教育の対象とすることが重要である。
高校教育が普遍化している現在、被害者が差別されることなく高校教育を受けられるよう配慮されなければならない。
身体的欠陥があるが、専門的教育を受けることが被害者の将来にプラスになる場合は、その可能性を伸ばすため援助する。

(ニ)職業訓練およびその施設
相談判定機関での相談判定の結果、適当と判断された職業技術を修得するために訓練を行なう。
訓練には既設の公共の職業訓練所の他に理解ある受入れ事業所にも依頼する。
職業訓練施設を設置する。その規模、内容、設置場所、設置数については「救済対策委員会」が定める。

(ホ)保護雇用事業所
労働不能ではないが、一般社会人に伍して自立して労働し、生活できない被害者に対しては、保護を受けつつ労働し、生活を保障される事業所を設置する。この事業所においては、労働の質と量の如何に拘らず、同年令の社会人と同様の収入が保障されるものとする。この事業所の運営に必要な経費は「救済対策委員会」が支出する。

(ヘ)協力事業所
森永ミルク中毒事件に理解をもち、被害者の救済に協力する意志をもつ事業所や公共の機関に被害者の就職、職業訓練を依頼する。
その場合、被害者の能力不足による収入減少は国家公務員標準給与を基準にして保障する。

(ト)収容施設
自立して生活することができず、家庭でも看護不能となった被害者を収容する施設を設置する。
その規模、内容、設置場所、設置数については「救済対策委員会」が定めるが、その設備内容は現在考えられる実現可能な最高水準のものとする。
施設による集団管理は、生活基盤での治療保護育成過程の一環として確立されるべきで、「社会的隔離」とならないよう運営されることが重要である。
収容施設への入所は、被害者の幸福を考える立場から判定されるべきであり、「相談判定機関」が決定する。
ただし、被害者および家族の意志は充分尊重して決定する。
収容施設には、生活基盤である家庭とのつながりを保ち、保護育成の効果を高めるため、保護者の宿泊施設を併置する。

(チ)医療センター
上記の収容施設には、被害者の健康管理、治療、機能訓練等を行なうため医療センターを併置する。医療センターは通院、入院も可能な規模、内容とし、必要に応じて研究施設としての機能も有するものとする。

(リ)保護育成事業と施設の運営
上記(ロ)~(チ)の事業とその施設の運営は一貫した方針で行なわれる。
運営は「保護育成委員会」により行なう。この委員会は、「救済対策委員会」の機構の一部として「管理登録センター」「相談判定機関」と連携を保ちながら活動する。
保護育成の諸施設は同一施設内に併存することが望ましい。
恒久的救済対策としての保護育成事業を完備するとともに既設の諸制度、施設の充実、拡充を要求する。
被害者および家族の希望によりこれらの施設を利用する場合は必要な経費を支払う。

(6)生活権の回復

(イ)年金
自ら収入をえることができない被害者には国家公務員一般行政職の給与相当額を基準として、年金を終身支給する。
公務員給与改正の際はスライドして引上げる。

(ロ)収入差額の保障
被害者が精神的、身体的事由のために就職できず、また就職しても能力不足のため標準的な収入を得られない場合は、国家公務員一般行政職の給与を参考としてその差額を保障する。
また前記事由のため休業した時は休業損害を保障する。

(ハ)結婚不成立に対する慰藉
被害者が被害者であることに関連して、結婚するについて支障が生じたり、あるいは離婚された場合は、妥当な慰謝の措置をする。

(ニ)生活上の損害
その他この事件によっておきる生活上の損害については適切なる措置をする。

(7)研究機構、研究施設
本中毒事件は医学的に未知の分野が多いため実態把握のための追跡調査、治療、予防法の開発など医学的研究が、絶対的に必要である。
あわせて、心理学的諸問題、社会復帰の方策など、社会科学との関連における研究も、今後の被害者の医療、福祉に生かされなければならない。

(イ)研究機構、研究費
直接に被害者の健康管理、治療、保護育成にたずさわる医学者や各種専門家が相互に連携を保ち、経験を交流して、被害者の提起する問題点を受け止めて研究し、対策を開発することが望まれる。
これらの研究に要する費用は、「救済対策委員会」が支弁する。

(ロ)研究施設
こうした研究態勢が確立されてゆく中で、研究施設の設置が要求されるであろう。
研究施設は治療・保護育成施設に併設されることが、より効果的であろう。

(ハ)研究委員会
研究についての事業を推進するため研究委員会を設ける。
この委員会は「救済対策委員会」の一機構として活動する。

(8)「森永ミルク中毒被害者救済対策委員会」
上記の具体的対策を実施するため運営管理機構として、「森永ミルク中毒被害者救済対策委員会」をおく。
この委員会は法人とする。

(イ)「済対策委員会」の性格
この委員会は森永ミルク中毒被害者救済のための最高機関であり、「守る会」の主体性のもとに被害者の意志が充分反映されるよう民主的に運営される。
したがって、その機構、メンバーも性格に応じて決定されるべきである。
この委員会は恒久対策実施にあたっての具体化、資金の運用、基準の設定、その他必要なことすべてを決定する。

(ロ)「救済対策委員会」の機構
本委員会の下部機構としてつぎの各機関をおく。
A 管理登録センター。
B 相談判定機関。
C 保護育成委員会。
D 研究委員会。
E 支払基金。
F その他必要と認められた機関。
各機関は「救済対策委員会」の管理指導の下に相互に連携して被害者の救済にあたる。

(ハ)費用
「救済対策委員会」の決定に従い、森永は必要なすべての経費を負担する。


Ⅲ.死者に対する補償及び生存者の過去の損害に対する補償

(1)死者に対する補償
死亡した被害者に対しては、死亡に伴って生じた一切の損害について補償すること。

(2)生存者の過去の損害に対する補償
被害者の過去一切の損害についても森永は補償の責任を有する。


Ⅳ.将来の要求

事態の変化に伴い、被害者を救済するために新たな措置が必要となった場合は、森永は、守る会の要求に誠実に応じなければならない。
なおこの恒久対策案は被害者自身の要求を拘束するものではない。


「附則」
「救済対策委員会」が成立するまでは守る会がその任にあたるものとする。



D むすび

森永ヒ素ミルク中毒被害者の恒久的救済に関する「守る会」の対策案は、「森永ミルク中毒のこどもを守る会」に結集したわれわれ親たちの事件発生以来今日まで18年間に及ぶ被害者とその家族の一切の苦悩と、経験と、こどもたちに対する愛情とその将来の不安とを基盤とし、それにこたえるために作られたものである。

またそれは、昭和46年12月から昭和47年8月までの9ヶ月間に及ぶ、守る会全国理事会、各府県本部、支部、地区、班、およびすべての会員の総力を傾注した、文字通り組織をあげての、苦難な大作業の結晶でもある。しかしながら、恒久的救済対策案の立案をもって、それが「天然自然に実現に向うものであって、守る会の活動も、被害者の任務も、これで終了した」ような考えを抱く人が万一にもいるとしたらならば、それは単に一場の夢か幻に終わり、その人に残されるものは、最後にはただ、みじめな敗北感と空しい失望のみとなるであろうこともまた必至である。

すなわち、この恒久的救済対策案は、全国の被害者が、支援団体、人道的な有識者をはじめ、全国民的世論の深い理解と、支持と、温かい指導とをうる中での、守る会の強力な運動と広範多方面的な闘いの展開によってのみ、はじめて実現に向う方途が開かれるものである。

さらに、以上の対策を実現し、確立した暁においても、それを維持し確実に実行し、また絶え間なくその内容の充実、向上、改善をかちとり断じて後退化も、有名無実化も許さぬと強い体制を作るためにも、被害者の恒久的な活動と闘いの継続を必須の要件とするものである。

これを要約するならば、森永ヒ素ミルク中毒被害者を、真に、かつ恒久的に救済しうるものは、①形式においてはこの恒久的救済対策案の諸条件の確立と、その具体的な実施であるが、②実質的保障は「守る会」の恒久的存続とその活動とであってしたがって当然「守る会」の正しい運動方針にもとづく組織的活動のみであることが銘記されねばならないものである。

このことはまた、すでに本案の前文(A)に述べているように、単に森永ヒ素ミルク中毒被害者を救うためのものにとどまらず、わが国の全公害被害者救済の新しいパターンを提示するとともに、一切の障害(児)者の福祉の向上にも直接的に貢献しようとし、併せて、医療、教育、社会福祉、社会保障など、わが国のあらゆる現行制度の進歩、向上、改善にも密接に関連する国民的事業の一環として位置づけられるものでもある。

以上の視点にたって、われわれは恒久的救済対策の確立を期せねば止まぬとする。全被害者とその家族との決意の再確認を要請し、あわせて、全国民の方々の切なるご指導とご援助とをおねがいして、本案のむすびとする。    

以上

 

 # ひかり協会ホームページが再開されました

    http://www.hikari-k.or.jp/

 

● 60周年記念冊子(還暦記念誌)500円で頒布中。お申し込みは、06-6371-5304(守る会 平松)まで。どなたにでもお分けします。

 

 

 

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